平成21年産道内粗飼料の傾向(速報)

 標記の内容について12月上旬までの結果をまとめました。日々の仕事等に役立てて頂ければと思います。21年産1番草については、分析結果より考察すると下記のようなポイントがありそうです。

         ○    引続き低粗蛋白質、高繊維の傾向にあり、繊維消化性も悪い
         ○    NFCなども例年より低めである
         ○    ミネラルは例年より若干低めである

●乾草(1番草)の傾向

1.乾草における5ヵ年の均値推移                                                            水分以外は乾物%

 

水分

CP

ADF

OCW

Ob

ADL

NFC

テタニー比

カリウム

カルシウム

総点数

H21

16.3

7.5

42.3

73.5

68.2

5.01

15.4

1.94

1.79

0.29

185

H20

15.8

7.1

42.1

72.8

67.4

4.96

16.1

2.13

2.05

0.30

269

H19

16.2

7.3

42.2

72.8

66.8

4.64

16.1

2.02

2.06

0.29

233

H18

17.3

7.7

41.8

71.5

66.1

4.60

17.1

2.41

2.13

0.24

253

H17

17.4

9.1

39.8

67.9

62.3

4.14

17.6

2.12

2.29

0.28

252

 21年産チモシー主体混播草地の1番乾草の平均値(表1)を見ると,ここ4ヵ年は粗蛋白質が低く、OCW、ADFといった繊維が高い傾向が続いていますが、21年産は更に繊維、リグニンなども高く消化性も悪くなってきているかも知れません。また、ここ数年続いたテタニー比の高い傾向は収まってきています。刈遅れの他、肥料価格高騰、適正な施肥や糞尿を活用した減肥などの影響かもしれません。
 21年産の粗蛋白質の分布は、昨年産と似ていることが分かります(図1)。一方、繊維の消化性とも関連してくるリグニンの分布は、5%以上の占める割合が昨年よりも多くなっています(図2)。

図1  図2

●牧草サイレージ(細切)の傾向

2.牧草サイレージにおける5ヵ年の平均値推移                                    水分,pH以外は乾物%

 

pH

水分

CP

ADF

OCW

Ob

ADL

NFC

テタニー比

カリウム

カルシウム

総点数

H21

4.26

73.5

11.9

41.6

70.1

62.3

4.87

10.5

1.61

2.04

0.43

651

H20

4.21

73.3

11.9

41.2

68.7

60.4

4.74

10.9

1.75

2.43

0.46

1482

H19

4.30

73.7

11.8

41.7

69.3

61.4

4.92

10.7

1.67

2.48

0.46

1730

H18

4.37

74.1

12.4

41.1

68.7

61.3

5.01

10.8

1.71

2.43

0.43

1225

H17

4.23

73.5

13.1

39.1

66.0

57.6

4.36

12.1

1.71

2.61

0.44

979

 21年産牧草サイレージでも低粗蛋白質、高繊維といったここ数年の傾向は引き続いており、更に高繊維の傾向が強いようです(表2)。
OCWの分布を見てみると、70~75%の割合がここ3ヵ年で一番高いことが分かります(図3)。また、21年産TDNについては、例年分布の中心となるTDN58~60ではなく、TDN56~58が分布の中心となっています(図4)。NFCでも若干低いようで、5~15%の割合が例年より若干多いようです(図5)。
 テタニー比が高い傾向は収まってきておりますが、関係する元素それぞれが例年に比べ低くなっています。カルシウムやマグネシウムの減少はテタニー比を上げる要因となるので注意下さい。
図3 図4
図5 図6
図7 図8

 

 21年産サイレージの有機酸を見ていくと、例年に比べて生成される有機酸の量が少ないことが分かります(表3、図9)。通常サイレージ有機酸の大半を占める乳酸においても、同様な傾向が見られます(図10)。そのため、サイレージのpH3.8以下のものが例年の半分程度になっているのが分かります(図11)。V-Scoreの平均値や分布を見ると昨年度と差があまり見られません(表3、図12)。サイレージ品質が若干改善傾向にあるように思えますが、含量の少なかった乳酸はV-Scoreでは評価に含まないため、悪化傾向にはないかもしれませんが、品質が改善傾向にあるかははっきりしません。むしろ、きちんとした乳酸発酵がされていないサイレージが増えてきているのかもしれません。

 

図9 図10
図11 図12

 

3.牧草サイレージにおける5ヵ年の発酵品質平均値推移
                                                                              原物%

 

pH

総酸

乳酸

酢酸

フ゜ロヒ゜オン酸

酪酸

ハ゛レリアン酸

カフ゜ロン酸

VBN比

V-Score

H21

4.26

1.75

1.08

0.41

0.05

0.17

0.02

0.02

10.4

74.9

H20

4.21

2.04

1.31

0.42

0.05

0.23

0.02

0.02

9.7

73.8

H19

4.30

2.37

1.34

0.56

0.08

0.31

0.05

0.04

13.2

62.6

H18

4.37

2.40

1.35

0.61

0.08

0.26

0.05

0.05

14.8

61.6

H17

4.23

2.21

1.44

0.48

0.06

0.18

0.03

0.02

10.9

72.0

 

 各地区別に見ても低粗蛋白質、高繊維の傾向は共通して見られるようです。その中でもOb/OCW%では道央地区が非常に高い傾向に、リグニンでは道央地区だけでなく北見地区でも高い傾向が見られています。

 

4.各地区の牧草サイレージの均値                                            水分,pH以外は乾物%

 

pH

水分

CP

ADF

OCW

Ob/OCW

ADL

NFC

TDN

総点数

道央

4.32

61.7

11.4

41.8

68.9

90.1

5.45

12.5

57.4

91

天北

4.42

75.0

12.9

41.4

69.7

89.1

4.90

9.4

57.9

89

道南

4.26

75.0

11.7

41.9

70.0

89.3

4.95

10.7

58.0

27

根釧

4.17

76.1

11.8

41.3

70.3

88.5

4.66

10.3

58.8

326

十勝

4.41

73.3

11.3

42.5

71.4

88.7

4.86

10.2

58.0

85

北見

4.24

75.1

12.3

41.9

68.5

88.7

5.19

11.0

57.6

33

   道央は札幌,苫小牧,旭川

●ラップサイレージの傾向

5.ラップサイレージにおける5ヵ年の均値                                           水分,pH以外は乾物%

 

pH

水分

CP

ADF

OCW

Ob

ADL

NFC

テタニー比

カリウム

カルシウム

総点数

H21

5.03

41.9

10.5

41.3

69.9

62.5

4.34

14.3

1.75

1.94

0.36

275

H20

4.88

41.4

10.0

41.4

69.5

61.9

4.21

14.6

1.91

2.21

0.36

482

H19

4.89

41.9

10.5

40.9

68.5

60.9

4.10

14.9

1.95

2.40

0.36

549

H18

4.87

44.5

10.6

41.1

69.0

61.4

4.27

14.6

2.00

2.31

0.32

529

H17

4.98

41.0

11.3

37.5

65.2

56.9

3.61

16.9

2.04

2.52

0.34

503

 

 ラップサイレージの傾向も乾草、牧草サイレージ(細切)と同様に低粗蛋白質、高繊維の傾向にあり、OCWやリグニンはここ数年で一番高い結果となっています(表5)。OCWの分布を見てみると、分布の中心が例年よりOCW70~75%の割合が非常に高くなっていることが分かります(図13)。また、その影響はNFCにも表れ、NFCが10~15%の割合が高く、21年産の分布が例年より低いことが分かります(図14)。

 

図13  図14

 

 ラップサイレージも、牧草サイレージ(細切)同様に道央地区、北見地区で高繊維傾向にあり、Ob/OCW%やリグニンが高く繊維消化性が悪い傾向を示しています。これら地区ではTDNも他地区よりも低い傾向にあります(表6)。

 

   表6.各地区のラップサイレージの均値                                        水分,pH以外は乾物%

 

pH

水分

粗蛋白

ADF

OCW

Ob/OCW

ADL

NFC

TDN

総点数

道央

4.90

39.4

9.5

42.1

70.4

90.3

4.77

15.1

57.6

48

天北

5.13

39.3

10.7

41.0

69.6

89.4

4.32

14.7

59.0

52

道南

5.27

34.2

10.0

41.1

68.9

89.3

4.16

15.9

58.9

15

根釧

4.98

46.0

11.0

41.1

69.8

88.7

4.21

13.3

58.9

128

十勝

5.16

31.9

10.5

40.8

69.4

87.8

3.83

15.8

60.1

19

北見

5.10

45.8

8.6

42.9

72.0

92.1

4.98

14.6

56.9

13

   道央は札幌,苫小牧,旭川

●まとめ
 21年産の粗飼料は、収穫期前からの天候不順、収量優先による刈遅れが影響し、全体的に低粗蛋白質、高繊維、繊維消化性が低い傾向にあります。また、NFC等のエネルギーに関連する内容も低い傾向にあるようです。そのため、各地から21年度産粗飼料の評価は好くなく、生乳生産性の低下などを招いているようです。
 また、ここ数年悪化傾向にあったミネラルについては、テタニー比で見ると低下傾向にあります。しかし、カリウム含量は低下しているものの、カルシウム含量やマグネシウム含量も同時に低下しているため、引続き粗飼料を生産する土壌のミネラルバランスにも注意が必要です。昨年からの肥料価格高騰などもあり、施肥を過剰から適正にしたケースや、充分な施用が出来なかったケースもあり、それが影響したのかもしれません。
 また、牧草サイレージでは生成される有機酸の総量(総酸)や、特に乳酸含量が例年より少ない傾向にあります。添加剤としてギ酸の利用も考えられますが、その割合は、数年前は依頼される検体の7%程度でしたが、ここ数年は11%程度まで増えています。しかし、21年産牧草サイレージpHからも3.8以下の割合が少なくなっていることから、やはりきちんとした乳酸発酵がされていないサイレージが多いのかもしれません。
 現在、まさに21年産粗飼料を給与している時期かと思います。今回の内容を情報として利用していただければと考えます。