搾乳は果樹農家や野菜農家で言えば生産物を収穫する作業であり、極めてデリケートな作業だと言えます。収穫の時に果物や野菜を雑に扱えば、その価値は著しく低下しますが、これを搾乳に当てはめれば、粗雑な搾乳では牛乳の質も低下してしまうはずです。搾乳の手順については多くのマニュアルが存在しますが、ここでは搾乳手順と合わせて、各作業の意味を再考してみましょう。
一般的な手順 (1)前搾り(捨て乳) 前搾りの目的は、「乳頭内に残っている細菌数の高い牛乳の除去」です。この時、乳中に混じった「ブツ」の確認もできます。各分房あたりで3~4回の手搾りを行うことが奨められます。また、前搾りには「搾乳刺激」を与えるという重要な役割もあります。 (2)プレディッピング プレディッピングは大腸菌等の「環境性病原菌」に対して有効とされています。乳頭がひどく汚れている場合は、ディッピング前に洗浄します。
(3)拭き取り よく乾燥させたタオルや殺菌済みのタオルでまずは乳頭表面を拭き、次に乳頭孔を念入りに拭きます。タオルを四つ折にする等にして、各乳頭に対して常にきれいな面で拭きます。また、牛乳中にディッピング液を混入させないために、意識して拭き取る必要もあります。
(4)ミルカー装着 「搾乳刺激」を与えてから約1分後にミルカーを装着することが理想です。これは、「搾乳刺激」を与えてから約1分後に泌乳のためのホルモン分泌が最大になるためです(「泌乳生理について」の項を参照)。プレディッピングから約30秒後に拭き取りを始めると、ちょうど良いくらいのタイミングで装着できるはずです。 ミルカーの装着時は、空気をできるだけ入れないように行います(図1)。拭き取りが不十分だと、ライナーがずり落ち(ライナースリップ)、空気の混入を許してしまいます。空気の混入は、クロー内部とライナー内部の陰圧バランスを逆転させ、その結果、ライナー側に牛乳が逆流します(ドロップレッツ現象)。この時、乳頭孔は開いているので、乳房炎原因菌や汚れが混入してしまいます(図2)。
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